止むに止まれない事情で、坊ちゃんを一人で遊ばせて、オレはトイレの便座に座っている。坊ちゃんは、プラレールを走らせるのに夢中になっているらしく、シャー、シャーと快調に列車が走る音がする。
ガシャン。
列車がぶつかる音がした。同じレールの上を二つの列車を走らせていたのが、衝突したのだろう。坊ちゃんは脱線して転がった列車を、今度は床の上で走らせ始めた。シャーと床の上を列車が走る音がして、坊ちゃんのかわいい足音が走り回っている。
ガチン。ガチガチガチ。
列車が壁に突き当たって、前進できずにガチガチ音を立て壁を打ちつけ始めた。いつまでたっても、ガチガチ、ガチガチいっているところを見ると、どうやらプラレールはソファーの下に潜り込んで、そこで行き止まっているようだ。
バシーン。
激しい音を立てて、リビングの扉が開いた。そして、トットットとかわいい足音が走り出てきた。オレが止むを得ない事情で座っているトイレの前を通り過ぎたと思ったら、戻ってきて、少し開いたままになっているトイレの扉を、バフッと閉めて、またトットットと走っていった。
ガチャ。
納戸の扉を開ける音がした。坊ちゃんがおもちゃやボールをソファーの下に入れてしまった時は、オレがほうきの柄でかき出して取り出す。そして、そのほうきはいつも納戸にしまってあるのだ。
ガタガタ、ゴトン。
納戸の中で何かが崩れる音がして、ゴトン、ゴトンと何かを引きずりながら出てきた。ゴトン、ゴトンという音はオレが座っているトイレの前を通り過ぎ、リビングに戻っていった。
カサコソ。
コンセントにコードを差す音がして、ブイーンと掃除機が音を立て始めた。やっぱり。掃除機が大好きな坊ちゃんが、納戸の中の掃除機を無視できるはずはなかった。パタン、パタンと、掃除機のノズルをあちこちに動かす音がして、時々ガチャンとか、ドシンとか、何かが落ちたりひっくり返ったりする音がしている。
ガフン。
掃除機が何かを吸い込んだ。ギュイーンと激しい音を立てて、掃除機が苦しみ始めた。そして、バタンと掃除機は放り出された。
プラレールは相変わらずカチカチと壁を打ち続けているし、掃除機はギュイーンといってのた打ち回っているし、ガチャガチャと何かがひっくり返る音がしているし。今度は、ゴソゴソ、ゴソゴソとおもちゃ箱をあさる音がして、そしてガラガラとおもちゃ箱をぶちまける音がした。続いて、レゴブロックをガラガラ。
止むに止まれない事情は、まだ継続していて、オレはトイレから出られない。いゃ、いっそのこと、トイレから出たくない。
ひーん。
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