友人の結婚に贈ろうと思ってドンペリを買った。
言わずと知れたシャンパンの王様である。シャンパンとは、フランスシャンパーニュ地方で作られる発泡ワインで、ブドウ品種、生産地域、栽培条件、醸造法など、細部に渡る厳しい規定をクリアしたもののみに与えられる名称だそうだ。それ以外はスパークリングワインと呼ばれ、シャンパンとは明確に区別される。
ま、こういう難しいウンチクは、別にオレがここで書かなくてもいいか。オレも詳しく知らないし。興味ある人は自分で調べてちょうだい。
ドンペリって、正式には、ドンペリニョンって言います。
ニョン。
ニョン。ニョン。
オイラ、ちびっこ忍者だよ。
ニョン。
箱が封印されているので、中が見えない。見たいな。見たいな。あー、ちょっと飲んでみたいな。うーん。飲んじゃおっかな。贈るのはサイダーでもいい気がしてきた。
でも、飲みませんけどね、大人ですから、我慢します。
ドンペリの箱をよだれを垂らしながら毎日眺めているオレだが、オレは昔ドンペリを飲んだことがある。
ドンペリを飲んだことがある、と自慢している時点で、物凄く貧乏人みたいなのだが、いゃ、貧乏人みたいなのではなく、貧乏人なのです。好きとか嫌いとか、好みを論ずるに至っていません。その経験があるだけです。しかし、肝心の味の記憶が徐々に薄れている。ドンペリの箱を眺めながら、過去の記憶に意識を集中し、味の記憶を手繰り寄せている。
匂いが強烈だったっけな。
口に含んだ瞬間、芳醇な香りが口の中でパァーっと広がって、シュゴーって脳天に突き抜け、一瞬にして頭蓋骨全体が、ドンペリの匂いに支配される。料理の味も香りも一瞬にして消されてしまい、強烈なドンペリの匂いに全てを占拠される。スゴイ破壊力の香り。
うっひゃーっ。なんじゃこれー。すげー。うめー。
そんな感じだったかな。
まぁ、そんな感じだったと思う。
一本飲んだことがあるだけのオレが、偉そうに評するべきではないのかも知れないが、ドンペリの強烈な香りは、たぶん、どんな料理を持ってきても、料理の味も香りも吹き飛ばしてしまうのではないかと思う。せっかくだから、匂いが強烈な他の何かとドンペリを闘わせてみたい。
ドンペリ対納豆。
ドンペリ対ブルーチーズ。
ドンペリ対クサヤ。
ドンペリ対ドリアン。
ドンペリ対 シュールストレミング。
臭い食べ物だけでなく、ありとあらゆる臭いものにも、ドンペリは勝てそうだ。牛舎の中や、肥溜めのほとりとか、バキュームカーの近くとか、腐乱死体の横とか、臭くて倒れてしまいそうな場所でもドンペリを一口飲んだら、そこは天国になるんではないだろうか。
うんこ対ドンペリ。
ドンペリがあれば、うんこにも勝てそうな気がする。
うーん。闘ってみたいなぁ。誰かオレにドンペリ贈ってください。本当に牛舎で飲みますから。
頼む。
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