ヘアコンタクト。
2004/11/16

 
 わが国の、カツラ、増毛、植毛などのいわゆる薄毛産業は、今や一兆円産業とも言われ、日本経済に大きな存在感を示している。その市場規模は間違いなく世界一だ。そして、薄毛を隠すための技術も世界一を誇っている。

 ハゲ、と言う言葉はとてもデリケートに取り扱われ、薄毛の人に対してこのような言葉を絶対に聞かせてはならないという、暗黙の了解がある。ハゲを隠している人も、それに気づいている人も、それを物凄く気にしていながら、その話題に触れることは許されない。ハゲを隠している人がいるだけで、その場には不自然でぎこちない空気が流れる。

 ハゲごときがこれほどデリケートで重大な問題として取り扱われる日本社会。なんと言うか平和だなぁ。世界中には、戦争や紛争や貧困やとにかく深刻な問題が沢山あるのに。あー、アホらし。

 さて、この薄毛産業界に新風を吹き込む画期的な商品が登場した。

 ヘアコンタクト。

 ヘアコンタクトとは、薄いフィルムに植毛したもので、そのフィルムをペタッと皮膚に貼り付ける。と、あたかもそこに毛が生えたかのような状態になるのだ。要は、毛の生えたバンソウコウのようなものだから、当然これは頭以外のところにも貼れる。テレビCMでは指や腕に張って見せている。

 頭以外に毛が生やせる。

 この商品の真価はここにあると言っても過言ではない。もう一度言うが、頭以外に毛が生やせるのだ。もう、自由自在に、どこにでも毛が生やせるのだ。それは必ずしも体である必要はない。
 毛の生えたテレビ。
 毛の生えたポスト。
 毛の生えたカニ。

 オレならば、まぁ平凡なアイデアだが、まずはヒゲを生やしてみる。オレがヒゲを生やしたら、きっと渋くてカッコいいと思うぞ。メガネだし。メガネにヒゲ。絵に描いたようなダンディズムだ。

 で、ヒゲの生えている面積をちょっとづつ増やしていく。誰にも気づかれないように少しずつ。気がついたら、顔面毛だらけの狼男。ガオー。

 「あれ、イトウさんって、あんなに毛深かったっけ。」
 「うーん、昔からあんなだったと思うけどな。」
 「でも、毛深すぎですよね。犬みたい。」
 「これがホントの、イトケン。なんつって。」

 もちろん顔面だけでは終わらない。全身が毛だらけになるまで、毛を増やし続けて、全身狼男になる。で、温泉なんかで服を脱いで、周りにいる人を思いっきりビビらせたい。
 「わー、イトウさんって、体も毛むくじゃらなんすね。」
 「うはは。カッコいいだろ。ガオー。」

 オレの増毛計画はまだまだ終わりではない。ここからが本番。
 次にその毛を短く刈り込む。全身、いがぐり頭の丸坊主状態にする。

 いがぐり頭って、なんか触りたくなるじゃないですか。手でジョリジョリなでなでしたくなる。子供の頃、丸坊主にすると、「ねぇ、ちょっと触ってもいい?」と言って女の子に取り囲まれた記憶がある。女の子に頭なでなでしてもらうのが、何だか幸せで気持ちよかった。

 うふっ。

 今度は全身ですから。

 全身をなでなでしてもらえますから。

 うふっ。

 どうですか、そこのお嬢さん。ちょっと、なでなでしてみませんか。
 

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