逮捕。
2004/06/15

 
 ジーンズショップのアクセサリーのコーナーに、手錠がつるしてあった。ボンテージ系のファッションのアクセントとして使用するアイテムである。

 手錠を見ると、子供時代の西部警察ゴッコを思い出し、血が騒ぐ。おおっ、カッチョイイ。手錠を思わず手にとって見る。おおっ、鉄で出来てるじゃん。ズッシリとした手ごたえがリアルっ。ちょっと、手にはめてみよー。

 カチャリ。

 金属的な音を立てて、手錠がオレの手を拘束する。冷たい金属の感触と、自由を奪われた窮屈さがリアルだ。フムフム、捕まったらこんな感じね。フムフム、力ずくでは逃げられないね。フムフム、結構窮屈ね。

 さてと。

 一通り手錠の感触を楽しんだ後、それを外すための作業に移った。通常、手錠のイミテーションは、簡単に外せるようになっている。鍵穴の横辺りについているツマミを押せば、外れるようになっている。

 あれ?

 ツマミがない。
 えぇぇぇっ。
 そんなはずはない。よくよく見てみるが、やっぱりない。

 13時42分、いとうけんじ逮捕。

 オレは途方に暮れて立ち尽くす。
 どうしよう、どうしよう。
 って、最初から方法は一つしかない。店員さんに外してもらうしかない。

 ひょぇぇぇぇぇっ。マジかよ。恥ずかしいっ。

 辺りを見回しても店員はいない。何食わぬ顔をして店員が通りかかるのを待つ。他の客が近づくたびに、手錠で遊んでいるフリをする。逮捕されて逃げられなくなったなんて、絶対に悟られてはならぬ。
 しかし、待てども待てども店員は来ない。

 仕方ない。レジまで行くか。
 手錠に拘束された両手を前に突き出して、ガックリと肩を落としながら歩く。テレビでよく見る、逮捕されて連行される犯人よりも、今のオレの方がずっと恥ずかしい。
 もうバカ。
 ホント、バカ。
 もう、このままここで死にたいぐらいのバカさ加減。

 「す、すみません。」

 レジのお姉さんが冷ややかにオレを見る。そして無言で鍵を取り出し、手馴れた手つきでオレを釈放してくれた。

 「す、すみません。もうしませんから。」

 ガックリと肩を落としたまま、その場を立ち去った。
 何も悪い事してないのに、仮釈放されただけの犯罪者の気分。虚しさに支配され、釈放されたすがすがしさを微塵も感じない。
 もう、泣きそう。

 レジのお姉さん、慣れた手つきだったな。
 オレ、何人目の逮捕者だったんだろう。

 どんな理由であれ、逮捕されるって、辛いな。

 もう、泣く。
 

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