ジーンズショップのアクセサリーのコーナーに、手錠がつるしてあった。ボンテージ系のファッションのアクセントとして使用するアイテムである。
手錠を見ると、子供時代の西部警察ゴッコを思い出し、血が騒ぐ。おおっ、カッチョイイ。手錠を思わず手にとって見る。おおっ、鉄で出来てるじゃん。ズッシリとした手ごたえがリアルっ。ちょっと、手にはめてみよー。
カチャリ。
金属的な音を立てて、手錠がオレの手を拘束する。冷たい金属の感触と、自由を奪われた窮屈さがリアルだ。フムフム、捕まったらこんな感じね。フムフム、力ずくでは逃げられないね。フムフム、結構窮屈ね。
さてと。
一通り手錠の感触を楽しんだ後、それを外すための作業に移った。通常、手錠のイミテーションは、簡単に外せるようになっている。鍵穴の横辺りについているツマミを押せば、外れるようになっている。
あれ?
ツマミがない。
えぇぇぇっ。
そんなはずはない。よくよく見てみるが、やっぱりない。
13時42分、いとうけんじ逮捕。
オレは途方に暮れて立ち尽くす。
どうしよう、どうしよう。
って、最初から方法は一つしかない。店員さんに外してもらうしかない。
ひょぇぇぇぇぇっ。マジかよ。恥ずかしいっ。
辺りを見回しても店員はいない。何食わぬ顔をして店員が通りかかるのを待つ。他の客が近づくたびに、手錠で遊んでいるフリをする。逮捕されて逃げられなくなったなんて、絶対に悟られてはならぬ。
しかし、待てども待てども店員は来ない。
仕方ない。レジまで行くか。
手錠に拘束された両手を前に突き出して、ガックリと肩を落としながら歩く。テレビでよく見る、逮捕されて連行される犯人よりも、今のオレの方がずっと恥ずかしい。
もうバカ。
ホント、バカ。
もう、このままここで死にたいぐらいのバカさ加減。
「す、すみません。」
レジのお姉さんが冷ややかにオレを見る。そして無言で鍵を取り出し、手馴れた手つきでオレを釈放してくれた。
「す、すみません。もうしませんから。」
ガックリと肩を落としたまま、その場を立ち去った。
何も悪い事してないのに、仮釈放されただけの犯罪者の気分。虚しさに支配され、釈放されたすがすがしさを微塵も感じない。
もう、泣きそう。
レジのお姉さん、慣れた手つきだったな。
オレ、何人目の逮捕者だったんだろう。
どんな理由であれ、逮捕されるって、辛いな。
もう、泣く。
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