ベイビーちゃん車に乗る。
買い物に出かけたり、病院に行ったり、嫁の実家に行ったりする時、やむなくベイビーちゃんを車で護送するわけだが、非常に神経を使う。そりゃもう、安全運転だ。安全運転をしていると、あおってくるバカが必ずいる。頼むから追突しないでくれよと祈りつつ、血の気の多いイトウケンジ、ブレーキランプをパカパカやったり、バックフォグランプを点灯したりして、仕返しをしてやる。どうだ参ったか、がははは。
ベイビーの護送に最適な車は、何と言っても黒塗りベンツだ。フルスモークにして、車高を落としてやれば、あおったり、無理に割り込んでくる奴もいない。日頃はイケイケブイブイのお兄さんも、絶対に道を譲らない意地悪オバハンも、さすがに黒塗りベンツには逆らわない。黒塗りベンツの威圧感は無敵なのだ。
よし。ベンツ買うか。
と言いたいところだが、ちょっと無理。
世のお父さんは、「赤ちゃんが乗っています。」のステッカーで代用するわけだ。頼むから無茶にあおったりしないでくれ、と言う切実な願いを込めて。しかし、あのステッカー、ほとんど意味がない。あのステッカーに気付くのは、同じようにベイビーを持つ親だけだ。バカなドライバーには何の効果もありません。ベンツ効果を期待して「ヤクザが乗っています。」と書いたステッカーを貼ったとしても効果なしだろう。
ステッカ一枚で相手をビビらせる、もっと威圧感のあるコメントはないものだろうか。
「殺人犯が乗っています。」
ダメだな。
「爆発物を運んでいます。」
いまいちだな。
「猛犬注意。」
だめだ。
「伝染病に感染しています。」
ふむ。これはなかなイイね。
「恨みます。」
ふむふむ。調子が出てきたね。イイね。
「呪います。」
イイね。
呪います、恨みますと書いていて、最強のデコレーションを思いついてしまった。
お経だ。
車のボディに、隅々まで隙間なくびっしり、般若心経の経文を書きまくる。そう、有名な怪談「耳なし芳一(ほういち)」のように。不気味だ。絶対に誰も近寄ってこないだろう。人間は寄せ付けないけど、別のものが集まってきそうだ。落ち武者とか。
怖っ。
絶対に忘れてはならないのは、ドアミラーにもきちんと経文を書くということ。さもなくば、落ち武者にドアミラーをちぎって持っていかれる。
怖っ。
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