夢の中では、オレは飛べる。
空を飛ぶ夢は、未来への飛躍を意味するとか、現実逃避願望の現れだとか、安易なインチキ心理分析の書物などに書かれているが、実際はそんなに単純ではない。
その夢が、何を象徴しているかは、その人によって違う。夢で見た事が、その人にとってどういう対象であるか、どのように感じている事か、その人がそれから何を連想するかなどを細かく聞き取り、系統立て考えなければ、夢による心理分析などは出来ないのだ。
皆さんが目にする夢分析の書物の多くは、あくまで娯楽。占いの範疇なのだ。
今回は、夢分析には触れない。オレの心理分析をしたところで、大して面白くもないだろうし。
今回のテーマは飛ぶということだ。
夢の中で、オレがどのように飛んでいるかというと、空中を泳ぐ感じ。
平泳ぎだ。
空中で平泳ぎをすると、体が宙を進む。
ちょっと気を緩めると、墜落するので、シャコシャコとすばやく手足を動かす。
急いで向きを変えたい時とか、地面に落ちそうな時は。
そりゃあもう、ものすごく素早い平泳ぎ。
手足をこれでもかと言うぐらいジタバタさせなければならない。
せっかく、何でも自分の思いのままに出来る夢の中なのだから、スーパーマンとか、鉄腕アトムみたいに、カッコ良く飛べばいいのに、シャコシャコ、ジタバタ。
あまりに無様な飛びスタイルで、とても人前では飛べない。
ホントのこと言うと、現実世界でも飛べる気がするのよ。
今まで、「人間は飛べない。」という固定概念に縛られていただけかもしれない。偉大なる発明や発見は、固定概念を打ち破ることから始まっている。夢の中でのオレの飛びは、なかなかリアルだった。同じようにやれば飛べるかもしれない。
いゃ、飛べるさ。
きっと、飛べるさ。
しかしだ。仮に飛べたとしても、飛ぶ姿を誰かに見られたらどうするよ。
「イトウさんとこの御主人、この間、飛んでたわよ。」
「見た見た。二階の屋根の辺りで、バタバタともがいているから、何かと思ったわよ。」
「みっともないわよね。」
「いくら飛べるからって、あれじゃあねぇ。」
そんな訳で、本当に飛べるかどうか、試す事が出来ない。
飛べるかもしれないのに。
あの夢は正夢かもしれないのに。
それに、もし飛べなかったらどうする。
「イトウさんの御主人、この間、地面にはいつくばって、ジタバタしてたわよ。」
「気持ち悪いわね。」
「変なもの食べて、気でも狂ったのかしらね。」
「目を合わせたら、ダメよ。」
やっぱり試せないよ。
本当は飛べるかもしれないのに。
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