我が家の冷蔵庫にはヨーグルトが常駐している。
牛乳にそのヨーグルトをスプーンですくって入れて、一晩放置すると、牛乳はヨーグルトになっている。食べてしまってなくなりかけたら、また牛乳に入れれば、いくらでもヨーグルトができる。次から次へとヨーグルトができる。
このヨーグルト、巷ではカスピ海ヨーグルトと呼ばれて、密かなブームとなっているらしい。
黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス地方の長寿村から、長寿研究をしている大学教授が持ち帰ったものが、人から人へと伝わって広まったものだと言われている。
美味いし、手軽だし、健康にもイイとかで、世の奥様方はカスピ海ヨーグルトの虜になっているらしい。
硬派なオレが、世の奥様方と同じく、フンフン言いながらヨーグルトを作っていると言うのは、ビジュアル的に若干の問題があるので、どうかご内密に。誰にも言うなよ。
最初のうちは面白がって、ヨーグルト作りに熱中していたが、何度も繰り返しているうちに感動は薄れていった。
水道の蛇口をひねれば水が出る。
スイッチを入れれば電気が点く。
ガスコンロのつまみをひねれば火が点くし、エアコンを入れれば快適な室温が維持できる。
そういう何でもない日常の一つになっていった。
牛乳からはヨーグルトが出来る。
ある朝目覚めたら、前の晩に仕込んでおいたヨーグルトは、イナゴの佃煮になっていた。ビンの中には、こんがりツヤツヤとしたイナゴがぎっしり詰まっている。
さすがのオレもビビるっちゅうの。
しかし、何事にも順応するのが早いオレ。まぁこんなこともあるだろうと納得し、イナゴの佃煮を食べてみる。
パリパリもぐもぐ。
フム。
なかなか美味いんでないの。
数日後、イナゴの佃煮を食べつくしたオレは、ビンに牛乳を入れ、イナゴを三匹ほど放り込んだ。翌朝、いつものようにヨーグルトが出来上がっていたことは言うまでもない。
それからと言うもの、時々、ヨーグルトの代わりに青汁が出来ていたり、ミネストローネだったり、生まれたての小鹿が手足をプルプルさせながら立っていたりすることもあるが、まぁ、大体はヨーグルトが出来る。
そんな訳でヨーグルト作りはちょっぴりスリリング。
なんて事だったら楽しいのになぁ、と思いつつ、今日もヨーグルトをズルズル食べている。
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