火星が地球に大接近するらしい。ふと見上げたら、星などほとんど見えない夜空に、ポツンと不気味に赤く輝く星を見つけた。
ははぁ、あれが火星だな。
火星と聞くと、何だかSFチックな印象を受けるのはオレだけかな。
その昔、ウェルズと言う作家が、「宇宙戦争」というSF小説を書いた。高度な文明を持った火星人が、地球に攻めて来るという内容のものだ。アメリカで、これをラジオドラマにして放送したところ、あまりにリアルな内容に、多くの人が本当に火星人が攻めて来たと勘違いをし、全米が大パニックになったらしい。
「か、火星人が来たってっ。ど、ど、ど、どうしようっっっ。」
とか、大真面目に言ってたんだろうな。
学校や会社もお休みです。
当然です。
だって、火星人が攻めて来たんですから。助からないんですから。
試合前のボクサーの食事制限なんて、もう中止っ。食いまくってやる。
糖尿病のお父さんも、スニッカーズとか、甘いもの食いまくり。
爪を噛む癖をいつもとがめられていた少年も、もう爪噛みまくり。
貧乏ゆすりを我慢していたオッサンも、ここぞとばかり膝ゆすりまくり。
だって、火星人が攻めて来たんですから。レーザー光線で焼かれちゃうんですから。
日頃溜まったうっぷんも、この際、全部吐き出す。今まで言えなかった事を全部言う。
「おぃっ。このアホ社長っ。今まで安月給でコキ使いやがってっ。そのハゲ頭にマジックで、髪の毛、書いてやるっ。」
「このクソ部長、今までネチネチいじめやがってっ。SMチックに縛ってやるっ。」
夫婦の間の隠し事も、全部暴露して心をスッキリさせる。
「ねぇあなた。実は今まで隠していたんだけど、あなたの親友のミッチェルと、随分前からデキてたの。」
「ぬぁにぃぃぃっ。ミッチェルとオレは、穴兄弟だったのかぁぁぁっ。最後に大切な話をしてくれてありがとう。もぅ、許すっ。どうせ、助からないから、許すっ。」
愛の告白だってしておかなければ。
「キャサリン、こんな時だから思い切って言っちゃうけど、ずっと前からスキでしたぁぁっ。」
「あら、ジョニー、実は私もっ。」
「時間がないから、恋愛の途中の過程は省いて、とりあえずヤッちゃおうっ。」
「せっかくだから、思いっきり変態プレイしてみない?」
「イイね。明日はどうせ火星人来るし、露出プレイでどう?」
安いサラリーで、やっとの思いで家を手に入れたお父さん。
「火星人に壊されるぐらいなら、この家、この手で燃やしてやるっ。」
そして、火星人襲来が、ただの勘違いだと気付いた時。
全米中に流れた空気は、さぞかし冷たかっただろう。
「父さん。」
おぅ。
「火星人。」
おぅ。
「来なかったね。」
おぅ。
「家。」
おぅ。
「きれいに燃えちゃったね。」
おぅ。
妄想に陥りやすいアメリカ社会の体質は、今も昔も変わらずと言ったところか。アフォですな。それにしても、その時代に生きていて、混乱するアメリカ社会をリアルタイムに見てみたかったよ。ホントに。
さて、今日も火星観測でもするかな。
ん?今、火星から何かが飛び出したのが見えたけど、まさかね。
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