電車の向かいの席に、ぴっちりしたスーツをまとい、きわどいミニスカートを穿いている女性が座っている。そして足を組んでいる。中身が見えそうで見えない、なんとも微妙な情景が目の前にある。
しかし、一つの問題がある。その女性、年の頃なら50代前半と言ったところ。
いや、その、彼女のまとう服装としては相応しくないのだ。なんとも言えない強烈な存在感をかもし出しながら、オレの前に鎮座している。
気にしないでおこう。別のことに集中しよう。
「ええっと、いすゞ自動車の株は今買っておくべきだよな。ペイオフはこのまま凍結されてしまうんじゃないかな、資金移動はしなくても大丈夫だな。ええっと、ええっと、そろそろ換気扇の掃除しなくっちゃな。・・ええっと、ええっと・。」
彼女が足を組み直した。
オレの視線は、条件反射的にそこに吸い寄せられてしまった。
ぐぉぉぉぉぉぁ。
なんてことだぁぁぁぁぁっ。
み、見えてしまった。ぁぁぁぁぁ。
錆びたスプーンをしゃぶったような、
銀紙を奥歯でかんだような、
すりガラスを爪でギギギとやったような、
非常に後味の悪いもので胸が一杯になった。
誤解のない様に言っておくが、オレは別に年配の女性の人を無意味に軽蔑したりする思想の持ち主ではない。ただ、物事には何でも、年相応と言うものがある。年に応じて相応しい事柄と言うのは違っているわけだ。
とにかく、忘れよう。別のことに集中しよう。
忘れよう。
忘れよう。
忘れよう。
忘れよう。忘れよう。忘れよう。
忘れてしまいたいことやぁぁぁぁ。どうしようもない寂しさにぃぃぃぃぃっ。
再び、彼女が足を組み直した。
きょょょょょょょょょょあ。
うかつにも、オレの視線はまたもや吸い寄せられてしまったのだ。
オレはいたたまれなくなり、席を立ち次ぎの駅で降りた。
何てことだ。何てことだ。何てことだぁぁぁぁ。
オレの眼は「スカートの中身が見えそう」という場面に、反射的に反応してしまう。
おそらく、スコットランドのバグパイプを吹いているおっさんのスカートが風でめくられても同じ事が起こるだろう。頼むから、女装だけは冗談でもやめてください。
しかし、この条件反射はオレだけに起こるものではなく、大抵の男性の身に起こるのではないだろうか。となると、スカートと言うのは相手の目をくらますのに、絶大な効力を発揮する武器になる。
近い未来、海兵隊の服装がミニスカートになるかも知れない。
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